ラジオ小説 第4話 トライアル

2011.07.01.19:30

7月1日(金)

 放送日 毎月第1金曜日     19:00~19:30
(再放送)毎月第2土曜日     11:00~11:30 



原作       MOTO-TOMO
構成       桜塚 れい

◆ メインキャスト ◆

ケンジ           MOTO-TOMO
ハルミ           桜塚 れい   
トライアル車乗り    西野 武流
ナレーション        桜塚 れい


   第4話  

・・・・・・トライアル・・・・・

空の雲がゆっくりと流れ太陽が真上から覗きこんでいる。
気温はかなり高く、ジャケットの中は汗ばんでいるがこれからの事を思うと全くきにならない。

先ほど休憩場所でケンジ達と別れた後、白髪混じりの男性は、ポケットからタバコを一本取り出し一息 入れてからエンジンを掛けた。
ポォ・ポォ・ポォ・ポー♪
小型のトライアル車は単気筒の歯切れの良い音を響かせながら走りだした。

彼は、昨年の春に無事に定年を迎え少年の頃から夢だった
オートバイ免許を夏に教習所で取った。まだ免許取得一年目の初心者である。

彼は、少年の頃 近くの河原でバイクに乗っているライダーを観て「カッコイイ!」
といつも思っていた。

そして、何時かはバイクに乗って あんな事をやりたい と心の隅に潜めていた。
あんな事とは、バイクのステップの上に中腰で立って崖道を一気に
下りたり上ったりなどのバイクの遊び方である。

後で判ったのだがそれがトライアルと言いう事を・・・。

彼は、免許を手にしてすぐ元トライアル選手がやっているバイクショップで 憧れてい た小型のマシンを購入した。

彼は今、駅前の駐輪場でアルバイトをしながら 週末になると嬉しそうにガレージか
らバイクを出して、林道を走るのが一番の楽しみである。

この日も彼は、先ほど二人と別れた後、山道のはずれの林道にバイクを登らせた。 
人とマシンでバランスを取り 苔で少し濡れていた丸太を越えたり、
岩場を駆け登ったしてバイクを走らせていた。

林道の途中には沢に向かって階段が作られている。
彼は、スタンディングスタイルで、階段を下り始めた。
階段は、土を削り角に丸太で縁を付けた簡易な物である。
これは、普通は山道を歩く人の物で 決してバイクが通る物では無い事は彼はもちろん知っているが 格好の練習場でもある。

膝でバランスを取り 一つずつ降りて行くと沢が見える。
沢が視界に入り、ヘルメットの奥で彼がほほ笑んだその時だった。
前輪が濡れた丸太の上に乗った瞬間、フロントが流れだした。
微笑みが消え、大きく目を開いてフロントタイヤと大きな岩を見えた瞬間、彼の意識は無くなった。

気がついたのは数時間後、木々の間から太陽の光がもれて彼の顔を照らした時だった。
意識を取り戻したのと同時に右足に激痛を与えられた。

大きな岩とマシンの間に右足が挟まり全く動かすことができなかった。
助けを求める為に 急いでリュックから携帯電話を取り出し
「119」を親指で何度も押したが音信が無かった。
携帯電話には無情にも「圏外」の文字。

彼は、急に笑い出し 持っていた携帯電話を岩場に投げ捨ててしまった。

男性「俺はいつもこうなんだ。仕事も家庭も俺を見捨てやがる・・。
こんな所で俺は・・・・!!」

と言いながら空を見上げた。
彼の目には、頭の上の木々が水中メガネで覗いている様に見えた。
流れ出る涙、そして これからの絶望を悟った彼は無感情に笑みを見せた。

突然、近くの草むらからガサガサと音が聞こえてきた。
音は徐々に大きくなり、こちらに来る気配がする。
野良犬かクマではないかと涙と鼻水で溢れだしそうな顔を震わせた。

グァサーと草むらが開いた瞬間。

彼の顔に本当の微笑みが戻った。

ちょうどそんな頃。

ケンジとハルミは今回の目的地である峠のイタリアンカフェに着いた。


      「トライアル」

     作 MOTO-TOMO

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